抑鬱亭日乘

陰雲黯澹。溽蒸甚し。早朝父上母上モーニングを食さむと連立ちて近所の喫茶店に出かけらる。余は去年この店にて不愉快なることに遭ひしかば徃かず。氣塞ぎて十一時假睡。晝餔の後煙草買ひがてら散步す。超級市塲Sに立寄り家具賣塲にて事務用椅子 HARA CHAIR を眺めゐたるに、店員來りて曰く、商品入替のため全品二割引といふ。然れど定價安からざるを以て到底購ふ可からず。歸宅して手紙二通したゝむれば日は忽ち晡なり。マクドナルド今後の新設店全席禁煙とする由。ロイヤルホストも來年末迄に六割以上の店にて喫煙席を廢すといふ。喫烟者の肩身狹くなりゆくばかりなり。夕餉に鯛の日干しを食す。

朝の中晴れしが午後より曇る。小島氏暑中見舞の品を餽らる。深切感淚に値すと謂ふべし。二時過驟雨沛然たり。雨歇みてはまた降り夜となる。情報誌ぴあ關西版十月七日號を以て休刊の由。思へば余久しくぴあを買はず。最後にぴあ愛知版を購ひしは何時なりしやと思ひ日錄を讀返すに平成十五年なり。早や七年の昔とはなりぬ。夕餉に牟岐町特產豆鰺の開きを食す。

終日雨炎暑を洗ふ。二週間ぶりに人心地つきたり。然れど何故か氣分すぐれず、陰々滅々として日を暮らす。午前勉强して執筆五枚。午睡より寤むれば五時半なり。

夜中あまりの暑さに中途覺醒すること幾囘なるを知らず。覺めては扇風機を囘しタイマーを一時間にセットす。半陰半晴。西南の風吹きつゞき暑氣大に忍びやすし。晡時午睡。夕餉の後カタルーニャ州議會の報道を網上新聞に讀む。鬪牛禁止法案可決。二〇一二年施行。禁止自治體はカナリア諸島に次いでカタルーニャが二番目なり。鬪牛廢止論者たび／＼動物の人權を擁護すべしなどゝ口にす。動物の人權とは何ぞや。動物愛護を聲高に叫ぶ者誰の需によるでもなく動物の代辯者を自任し、人間の尺度で動物の生存を策定す。彼等の思想は人間中心主義の極みにして自己愛の表明なり。正義は我にありと叫び聖戰を遂行するさまは現代の神學といふべし。異端審問なり。この日大瀧詠一六十二歲の誕辰なり。

乍晴乍陰。八時過話の種にモーニングを食さむとて父上母上と倶に步みて洋食屋Kに赴く。店頭の立看板に朝定食の寫眞あり、麵麭炒り玉子サラド飮物なり。然るに女給の持ち來りし料理に炒り玉子なく、茹で玉子一個小さき皿にあるのみ。不審に思ひて歸りがけ看板を改めて見るに、スクランブルドエッグの寫眞中央に細く白きテープ貼りて、玉子は茹で玉子になりますといふ文句微細なる文字にて書きてあり。詐欺に遭ひたるが如き心地せり。炎熱依然たり。三時過風呂塲にて行水に汗を流す。夕餉をなしベランダに出でゝ烟草を喫するに、何處かにて兒童の戲るゝにや、シャボン玉一つ二つ、三つ四つ眼前に顯れては消ゆ。

晴。旬日雨なし。苦熱何事をもなし得ず。熱射病の初期症狀なるにや、輕き眩暈を覺ゆ。二時過仰臥し扇風機を囘す。忽ち黑甜鄕に遊ぶ。

熊蟬の聲雨の如し。今年は蟬の聲去年に比して多し。氣溫けふも三十七度に昇りしが濕氣少なく、樹下に吹き渡る風心地よし。セキセイ鸚哥のシジミ君連日暑さに堪へかね羽を附根より廣げては脇の下に風を通し涼を納む。山下達郎サンデー・ソングブックを聽くこと例の如し。冒頭新作作品集 WooHoo 發賣延期の謝罪あり。當初は九月十五日發賣と告知し、旣にほゞ完成したりしが、出來映え本人の豫想を上囘り、三年後に還曆を迎ふ年齡となりしかばアルバム制作の機會もおのづと限らるゝを以て、能ふ限り完成度の高き作品集をつくらむと更に一二曲追加することゝし、制作作業一旦中止、來月開始せらるゝ全國演奏旅行の合間に仕上る由。如何にも凝り性の達郎らしき英斷といふべし。クリケッツの You're Mine 絕品なり。この頃去十日死去せしつかこうへいの遺言頻に思ひ出さる。余も斯くありたしと思ふなり。全文を茲に記し置く。

友人、知人の皆様、つかこうへいでございます。
思えば恥の多い人生でございました。
先に逝くものは、後に残る人を煩わせてはならないと思っています。
私には信仰する宗教もありませんし、戒名も墓も作ろうとは思っておりません。
通夜、葬儀、お別れの会等も一切遠慮させて頂きます。
しばらくしたら、娘に日本と韓国の間、対馬海峡あたりで散骨してもらおうと思っています。
今までの過分なる御厚意、本当にありがとうございます。

2010年　1月1日　つかこうへい

碧空拭ふが如く、烈日燬くが如し。坐ながらにして汗流るゝばかりなれど思ひしよりは心地わろからず。數日前より如何なる故にや氣力快方せむとするが如し。前期授業を無事終へて安堵したるが故歟。朝餉の後突如興をおぼえて執筆三四枚、今月の責を塞ぐ。書き畢れば日は正午なり。几案の寒暑計今日も三十七度を示す。夕方超級市塲Aに赴きハンチングを購ふ。カーラヂオよりテンサイイッカダバーカボンボンと佛蘭西語訛りのボサノバ歌曲流れて一驚を喫す。歌手はクレモンティーヌといふ佛蘭西人といふ。三更敎育テレビに反應性愛着障碍者の密着取材記「うちは、一人じゃない～虐待の傷再生への五百日～」を見る。長崎縣の情緖障碍兒短期治療施設大村椿の森學園に暮せしアオイといふ女子學生の記錄なり。職員鳥羽瀨氏の獻身人をして頭を垂れしむ。三週間の補講を終へ高校卒業、退所前夜幼き兒童のアオイさんにしがみつき別れを惜しみてさめ／″＼と泣く姿人の胸を打つ。獨居のアパートにて職員全員の直筆による生活支援ノートを讀み感淚にむせぶアオイさんを見て余もまた暗淚を催す。十三夜の月よし。

連日快晴。けふも犯罪的な暑さなり。午前執筆四枚。筆漸く進む。下し藥の效果なるにや、將又咖啡の飮過ぎにや、腹候佳ならず。下痢二行。案頭の寒暑計攝氏三十七度を示す。午睡して晚涼を待つ。六時母上を伴ひ自動車を運轉してホームセンターに赴き買物をなし、知多家に夕餉をなす。久振りにて味噌かつを食す。窓の外を見るに、北東の空に入道雲あり。母上と暫し眺む。パステルに立寄りなめらかプリンを購ひてかへる。九時過腹ごなしに散步す。宵月の色淸奇なり。公園を通り拔けセブンイレブンに赴き煙草を購ふ。去月開店したる洋食ことこと屋を覗く。金曜の夜にしては客多からず。この日大暑。

炎熱甚し。九時過豐田キャンパスに着く。空氣乾燥して不快ならず。宛らマドリードに在るが如し。八號舘一階の講師控室に赴くに入口の扉開け放たれ、部屋の四隅に背の高き扇風機囘りゐたり。女性職員の話を聞くに、一昨日夕方より空氣調節器故障して、昨日は丸一日扇風機のみで仕事し非道い目に遭ひたりといふ。幸ひにして直に涼しき風天井より吹出でたり。一限二限とも前期試驗を行ふ。フランシスコ・アヤーラの隨筆集 El tiempo y yo を讀みながら監督す。終了後合否を氣にして敎壇に來る學生數人あり。歸途農協に立寄り上白糖四キロ購ふ。母上の作らる紫蘇ジュースの材料なり。一時前家にかへる。日中寒暑計攝氏三十七度に昇りしが濕氣なければ團扇と扇風機で忍ぶを得たり。多治見三十九度四分。名古屋の濕度二十四パーセントといふ。晚涼を待ちてドラッグストアに買出しに行く。十月朔より煙草値上となる由。マールボロ參百貳拾圓の處四百四拾圓となる由。

朝六時目覺め暫くにして微かに地震ふ。炎暑燬くが如し。今月も早や下旬となり連載原稾〆切の日迫り來れど何故か感興來らず、筆を秉らむとすれど能はず。懊惱甚し。晡下午睡わづかに苦熱を忘る。支那のエネルギー消費量米國を拔き世界一となる。外貨保有高も日本を拔き世界一なり。飜つて山間部の寒村にては赤貧洗ふが如し。恐らくは貧富の差もまた世界的規模なるべし。共產主義の看板いつまで揭げるにや。人件費早くも高騰しつゝあり、早晚勞働者の罷業など起りて經濟混亂するべし。それにつけて思ひ出さるゝは五年前ノキア日本法人の取締役M氏より聞きたる話なり。氏の話に、年收一千萬圓を超ゆる者北京市内に限りても百萬人を下らざるといふ。泡沫經濟の行く末は日本人の痛切に感ずるところなり。この日金賢姬元死刑囚輕井澤の鳩山由紀夫別莊にて橫田めぐみの家族と面會す。

晴れて酷熱益甚し。ベランダの八手ゴールドクレストアイビーに水を灌ぐ。連日の日照つゞきに土忽乾くなり。N子余が懸弧の祝ひなりとてエステバンのアロマコンセントライトとラベンダーオイルを贈らる。母上は梨のタルトを購はる。午後几案の寒暑計早くも攝氏三十四度を示す。多治見三十六度、魯西亞も熱波續き死者千三百人、飜つて南米は大寒波襲ひ來りて亞爾然丁南部で氷點下十五度に達し死者尠からずといふ。三時主治醫を訪ひ診察を乞ふ。腹候漸く平生に復す。この日土用に入りたれば夕餉に櫃まぶしを食す。殘照半空を染む。

蚤起。炎熱更に甚し。案頭の寒暑計攝氏二十八度を示す。朝餉の後駐車塲に赴くに恰も鐡板燒の如し。旣に三十度は下らざる可し。MOVIX三好に徃く。海の日の祝日とて雜遝殆步む可からず。發券機前にも行列をなせり。十時よりピクサー社の立體映畫トイ・ストーリー3を看る。字幕スーパー版を看たしと思ひしが、話題作多かるを以てなるにや、この劇塲は日本語吹替版のみの公開なり。ロッツォのネッド・ビーティー、ストレッチのウーピー・ゴールドバーグ、ミスター・プルックルパンツのティモシー・ダルトンの聲を聽くことを得ざるは寔に殘念なり。ミスター・ポテトヘッドの吹替は名古屋章に替りて辻萬長なり。觀衆滿塲。空席殆無し。鄰席に五六歲の女兒在り。立體映畫を看るは初てと覺しく、眼前に迫る映像を摑まむとて時々兩腕を伸ばす姿愛すべし。作品は二作目に及ばず、一作目には遠く及ばず。同時上映の短篇デイ＆ナイトは英國アードマン社の趣あり。午下家にかへる。草稾をつくらむと筆をとりしがあまりの暑さに思考鈍磨す。晚霞燦然。日歿して猶蟬聲を聞く。半月あきらかなり。

陰後晴。炎暑ます／＼甚し。烟草買ひがてら散步す。日の光照り輝き長く戶外に居るに堪へざるばかりになりぬ。矢田川に輕鴨六七羽。サンデー・ソングブックを聽くこと例の如し。三曲目にマリヽン・マックーとビリー・デイヴィス・ジュニアの星空のふたり You Dont' Have To Be a Star かゝり、喜びのあまり思はず立上りたり。この歌を初めて聽きしは平成十二年五月廿一日放送の同番組、初て精神科に入院しゐたりし時なり。モノラルポータブルラジオに耳を澄ましながらミニディスクに錄音し、退院までの一週間每日再生しては聽惚れたりき。今日始てステレオ版を聽くを得たり。十年前の歌に比して間奏部分長し。定めて今日の歌はLP盤にして徃時のものはシングル盤なるべし。囘顧すれば早や十年あまりのむかしとはなりぬ。

Baby come as you are with just your heart
And I'll take you in
You're rejected and hurt
To me you're worth what you have within

Now I don't need no superstar
Cause I'll accept you as you are
You won't be denied
Cause I'm satisfied
With the love you inspire

You don't have to be a star, baby
To be in my show
You don't have to be a star, baby
To be in my show

Somebody nobody knows
Could steal the tune that you wanna hear
So stop your running around
Cause now you've found what was cloudy is clear
Oh honey,

There'll be no cheering from the crowds
Just two hearts beating out loud
There'll be no parade, no TV or stage
Only me till your dying day

You don't have to be a star, baby
To be in my show
You don't have to be a star, baby
To be in my show

Don't think your star has to shine
For me to find out where you're coming from
What is a beauty queen
If it don't mean I'm your number one?
Oh honey

And I don't need no superstar
Cause I'll accept you as you are
You won't be denied
Cause I'm satisfied
With the love you inspire

You don't have to be a star, baby
To be in my show
You don't have to be a star, baby
To be in my show

梅雨あけて炎暑の日來る。靑空に白雲多く浮び、學童の夏休み初日にふさはしき天氣なり。蟬聲多し。久振りに信州上田みすゞ飴を食す。晚霞染むるが如し。一箇月程前より朝な夕なオーツ麦を所望し來りしシジミ君ぴたりと催促を歇む。みうらじゆん氏の云ふマイブームなりしにや。

積雨漸く霽る。雲氣欝勃。朝初て蟬聲をきく。感興索然たりしが勉强して筆をとる。午後雷聲段段。北の空に電光閃くを見る。腹痛稍痊ゆ。先月末の健康診斷結果早くも郵便にて屆く。理學的檢査何れも異常なし、但し腹圍九十二糎、中性脂肪コレステロール稍高く、メタボリックシンドローム豫備群との記載あり。

雨來らむとして來らず欝蒸甚し。八時前出發。國道一五五號線珍しく車の徃來少なし。前期最終授業を行ふ。いつものやうに出缺をとりがてら學生一人一人と西班牙語にて挨拶を交はして後、蹴球世界盃スペイン代表選手名簿を紀念に配附し、一課より四課まで復習す。K君の敎科書を窺ひ見るに、全頁餘白に赤き文字でびつしり書込みをなし居たり。一所懸命に勉强するさまにおのづから頬も緩みたり。歸宅して駐車塲に車をとめるや眼前に赤蜻蛉の飛ぶを見る。便通三四囘。晡時雷雨。雷聲を聞けば黴雨の時節は盡くと言傳ふ。傘をさして農協に赴き菓子類を購ふ。橋の袂の交叉點に白きワンボックスカー暴走して赤信號を無視し南へ走り去れり。運轉席を一瞥するに、運轉手は二十代前半と覺しき男、帽子を被り、左手に握りし携帶電話を耳にあて何やら話しながら操縱しゐたり。斯くの如き破落戶はどこかの電柱にでも激突してくたばるがよし。この日下腹部の痛みに加へて胃も痛み出しぬ。

陰雨冥々。福岡山口廣島鳥取島根猛雨。試驗問題作成昨の如し。一時間置きに厠に駈込むこと是亦昨の如し。晡雨ます／＼降りまさりて書窗黯澹、日沒と思ひしにや、シジミ君大聲で鳴き始めたり。ペネロペ・クルスとハビエル・バルデム月初バハマ諸島にて親族のみの婚儀を執り行ひたりといふ。ハモンハモンの共演者十八年の歲月を經て夫婦となれり。

朝大雨瀧のごとし。晝前小止みとなる。坐ながらにして汗じめじめと湧出でゝ心地よからず。加へて便祕猶治せず下腹痛みて不快この上なし。前期試驗問題作成を始む。午後理髮舖に赴き散髮して主治醫を訪ひ診察を乞ふ。緩下劑プルゼニドとラキソベロン内用液を處方せらる。醫師の話に、今般の便祕は抗欝劑精神安定劑の副作用に非ず、定めて先月の欝惡化によるものなるべしと云ふ。超級市塲Vにて三五八漬の素三袋を購ひ歸る。この日排便六囘。一時間置きに雪隱に驅込む始末なり。フィデル・カストロ十一箇月ぶりに玖馬國營テレビ出演、韓國海軍哨戒艦沈沒事件は米國の策畧と斷ず。血氣盛んなること靑年時代に劣らず。

積雨午後に至つて纔に霽る。朝飯を食しながら衞星第一放送に蹴球世界大會決勝戰の結果を見る。西班牙一對零にて和蘭陀を斥け世界王者に君臨す。決勝の射門を放てしイニエスタの下着に、ダニ・ハルケよ君は常に我らと共に在り DANI JARQUE SIEMPRE CON NOSOTROS と讀めり。貴賓席にソフィア王妃フェリペ皇太子レティシア皇太子妃欣喜雀躍するを見る。會塲はヨハネスブルク市内舊黑人居住區ソエトのサッカー・シティーなり。筆とるも感興來らず。夕飯を食して再び筆を執りゐたるに火災報知器鳴り響き、念のため階下に避難せしが炎も煙も見えず。警備會社の男旣に來りて在り。上階の住人は外階段より下を見物しゐたり。異狀なし。溽蒸堪ふべからず。つかこうへいの訃あり。去十日肺癌にて歿せり。西班牙代表選手を茲に記し置く。

霖雨歇まず風また烈し。濕氣甚し。午下雨の小止みを窺ひ投票所に赴く。大相撲名古屋塲所初日。過日力士十數名の野球賭博露見し、胴元は暴力團なりとの噂頻りなるを以て、NHKは中繼せず。大關琴光喜解雇せらる。余は例年阿武松部屋の稽古を見學せしが、今般の事件は阿武松部屋の床山が渦中の人なれば新聞雜誌記者の來訪定めて多かるべしと思ひ今年は徃かず。富士貞房先生新著モノディアロゴスⅢを惠贈せらる。

晴れて復び暑くなりぬ。新聞紙頻に參議院選擧の事を論ず。晝餉に初生の西瓜を食す。食後散步。枕頭DVDにて山中貞雄の活動寫眞人情紙風船を看る。是日淺草寺四萬六千日の賽日なり。

淫雨濛々。連日炎暑の後突然の涼しさに何とはなく疲勞を覺え終日睡眠を催す。體調のよからざる時は烟草の味もまたよからず、味よからざれば吸ひたしとも思はず。DVDにて抱擁のかけらを看る。出演陣豪華、船頭多くして船山に上るといふべし。夕餉にハスカップのワインを一口飮む。

けふも惡夢を見る。起き出でしが今朝も腹候佳ならず。自働車を運轉し豐田學舍に向ふ途次も痛み去らず、最惡の塲合は休講にせむと肚を決め、豐田に着くに、幸にして復調せり。溽蒸甚だし。一限二限とも會話練習の後試驗に備へて復習をなす。授業後講師控室を出づるに、背後より先生と余を呼びとめる女子學生あり。振返れば曾て余の授業を受けしFなり。もう四年生になりましたといふ。光陰矢の如きを思ひて、心中老來の歎禁ずること能はず。午後ヤマト運輸に赴き荷物二箱をそれ／″＼叔母S叔父Yに發送し、溫泉に立寄り一浴してかへる。蹴球サッカー世界盃準決勝西班牙一對零で獨逸を破り決勝進出を果す。晚涼襲ふが如し。

乍陰作晴。溽蒸忍ぶ可からず。頃日疲勞甚しく又便祕す。正午前下腹痛み厠に駈込みしが便通なく、痛み次第に增して堪へ難く、一時間ばかり格鬪するも甲斐無く、下劑四錠を服す。これが禍となり、七轉八倒の苦しみを味はひ、慈君見るに見かねて辻自働車を雇はれ、倶に救急病院に赴く。慈君車椅子を押され、救急内科の處置室に赴き、診察を受け、別室に移動し浣腸を施されたり。幸にして便通ありて痛み少しく去りぬ。家にかへれば日は晡ならんとす。未だ下腹少し痛みしかば、被を擁して臥すこと二時半ばかり。夕食に粥を啜り、明日の授業に備へて睡眠劑を服して眠る。此日小暑。

惡夢を見る。陰。微雨あり。午後主治醫を訪ひ治療を請ふ。欝の惡化を訴ふ。レメロン一囘一錠より二錠に增ゆ。日中の藥は變らず。病院玄關に七夕の笹竹立てられ、見舞客の男願の短册を結ぶを見たり。風習依然として舊時に變らざるは大に喜ぶべし。晡時歸家。心地よからず、腰のあたりに鉛の詰まりしが如し。平岡正明藝能の祕蹟を讀む。梅棹忠夫歿。享年九十。

陰後に晴。氣塞ぎて何事もすること能はず。寐つ起きつして日を暮らす。ラファエル・ナダル庭球ウィンブルドン大會二年振りに優勝。

曇天。暑氣稍忍び易し。網上新聞紙に世界盃の結果を讀む。西班牙一對零にて巴羅貝《パラグアイ》を下し、準決勝は宇柳具《ウルグアイ》對和蘭陀、西班牙對獨逸となれり。先週より氣力消磨し欝々として樂しまず。原因に心當りなし。食事以外椅子に坐することさへ困難なり。サンデー・ソングブックに Stuff の My Sweetness を聽く。NHK-FM輕音樂をあなたにの主題曲なりき。初更日曜洋畫劇塲にセンター・オブ・ジ・アースを看る。愚作鑒賞に堪へず。合間の商業廣告にトイ・ストーリー3の本篇より二塲面放映せらる。うち一つは爆破されし鐡橋より落下する列車をバズ・ライトイヤーが救ふ塲面なり。未だ公開されざる活動寫眞のクライマックスを放映するとは前代未聞と云ふべし。

雨。困臥半日。日暮れて雨車軸を流すが如し。二更NHK總合テレビにウィンブルドン女子決勝セリーナ・ウィリアムズ對ベラ・ズボナレワ戰を中途まで見る。三更CBCテレビに亞爾然丁對獨逸戰を見る。意外の結果に一驚を喫す。

雲氣欝勃、風絕えて恰も溫室に在るが如し。朝餉の後步みて郵便局に赴き總持寺に念珠代金を振込む。午後自働車を運轉して三郷やまとの湯に徃き露天風呂に浴す。湯寔に良し。開業十周年といふ。いつか八漢湯といふ漢方藥の浴槽できたり。この露天風呂に浸かるは久振りのことゝて、家に歸りて日錄を讀返すに、前囘赴きたりしは舊臘なり。老來いよ／＼光陰の速なるに驚くのみ。今年も早や半年は過ぎぬ。靜岡の二大學にて講義する豫定なりしが、一箇月を經ずして鬱再發し講義は斷念せり。週二コマが精一杯とは不甲斐なく、いかにも口惜し。初更中京テレビに紅の豚を見る。ジーナこと加藤登紀子が唄ふさくらんぼの實る頃いつ聽いても佳し。二更伯剌西爾對和蘭陀戰。前半は敎育テレビ、後半は總合テレビで中繼せらる。伯剌西爾開始十分で先制點を奪ひしがフェリペ・メロの烏龍球《オウンゴール》にて追ひつかれ、後半不貞腐れしフェリペ・メロ紅牌を受け退塲、以後伯剌西爾の攻擊統一を缺き、和蘭陀角球を頭槌にて決め、二對一にて伯剌西爾を破りたり。三時過ぎても眠れず、睡眠劑を服す。今夏初めて寢室の空調を除濕運轉す。

陰曆五月廿日。酷暑熱帶に在るが如し。學生も口々に暑い／＼と呟けり。午前通常授業を行ひ、歸途圖書舘に立寄りドラッグストアに買物をなす。入口の棚を一瞥するに可口可樂一本八拾八圓、三本貳百五拾八圓の廉價に一驚し、數年ぶりに購ひたり。總持寺より星月菩提樹無病念珠屆く。この日丸の内東京會舘にて井上ひさしお別れの會催さる。