午前二時半眠より寤む。イヤホンよりエディット・ピアフとジュリエット・グレコのシャンソン聞ゆ。NHKラヂオ深夜便なり。五時半起出でゝ電子郵件など確認し八時過ふたゝび被を擁して臥す。ユーチューブに鸚哥の動畫を賞すること半日に及べり。昏刻中京大學敎務課より電話かゝりて、四年生の成績票提出締切は今日なりしとの事なり。余の授業は一年生向けなれど四年生にて登錄したる者二名あり、然れども兩名とも授業試驗ともに缺席したればその存在すら忘れゐたり。明日名古屋キャンパス敎務課に提出されたしとの事なり。シドニー・シェルダン歿。享年八十九。
空晴れわたりて暖なり。終日困臥。晝夜ともに食さず。ウィンドウズ・ビスタ發賣さる。余は購ふつもり毛頭なし。
薄く晴れて風寒し。午後メディカルクリニックに徃きカウンセリングを受く。殆ど語れず途方に暮るゝ儘五十分は過ぎぬ。
曇る。鬱々として眠を貪ること昨の如し。食欲なし。ゼミ卆業生Yさん内祝ひを送來る。卵形の花甁なり。
倦怠感甚しく晝は食さず終日眠を貪る。N堂と稱する出版商手紙にて西班牙内戰と××なるものを刊行するにつき、余の隨筆若干を編入したき趣申來る。手紙を讀むに「この度は××のご執筆を快くお引き受けくださいまして、誠に有難うございます」とあり。何の事やら譯もわからず。寢耳に水とはこの事なり。此日母上の誕辰なれば晡下どうにかかうにか牀を出でゝケーキを購ひ歸宅するに鬱の波散ぜずふたゝび橫たはる。
風絕えて今日も好く晴れたり。飜譯訖る。晝は食さず。午後三郷やまとの湯露天風呂に一浴す。大寒に入りてより日脚の永くなりたること稍際立つやうになりぬ。年の改まりし頃には夕方五時にはあたり全く暗くなりてゐたりしが、今は五時半を過ぎざれば昏黑とはならざるなり。月刊誌演劇界一時休刊。今年は演劇畫報創刊百周年といふ。
快晴。西北の風烈しく寒氣凜然たり。南原山の空地砂塵濛々として渦卷く。原稾五枚を書き得たり。ケンコーコムよりナショナル社製剃刀機の替刄屆く。外刄貳千貳百六拾八圓、内刄壹千九百八拾四圓也。交換部品にて暴利を貪ること甚し。キヤノン社製印刷機のインキも頗る高價なり。
朝の中曇りし空薄暮に及びて晴れたり。午前主治醫に藥を乞ふ。午後ロベルトの戲曲 Cenizas vivas の飜譯を始め、つゞけて聯載原稾三枚つくる。夕月空にかゝるを見る。夏川りみ休養を宣言す。
薄く晴れて風寒し。聯載の筆とらむとせしが感興來らずして止む。終日門を出でず。第五十一囘岸田國士戲曲賞受賞作なし。選考委員は井上ひさし(缺席)、岩松了、鴻上尙史、坂手洋二、永井愛、野田秀樹、宮沢章夫なり。宮沢の富士日記に講評を讀む。夕餉に赤米を食す。
晴。終日何事をもなさず、讀書する氣力もなし。唯寐つ起きつして日をくらす。そのまんま東こと東国原英夫宮崎知事選當選。此日よりパックス石けんハミガキを使ふ。
陰。FM愛知に山下達郎サンデー・ソングブックを聽くこと例の如し。ジェームス・ブラウン追悼特輯なり。餘計なる解說一切を省き只樂曲のみ延々放送する快擧を遂ぐ。本谷有希子「遭難、」鶴屋南北賞受賞。
曇。大寒なるに寒氣卻つて嚴しからず。疲勞して何事を爲す能はず。橫臥して志ん朝の落語を聽く。父上早朝東京に發ち晚間歸宅せらる。
快晴。千代田線にて霞ヶ關に出で丸ノ内線に乘換へ東京に徃く。八時五十三分發新幹線のぞみ號にて名古屋にかへる。十一時半歸宅。午眠燈刻に寤む。
曇り。風ふきてさむし。午前中京大學豐田學舍にて後期試驗を行ふ。學生諸氏の苦心慘憺して解答に挑むさまいつ見ても愉快なり。理髮舖に立寄り一時家にかへる。原稾一葉。東上に備へて安定劑デパス0.5mgを飮む。今宵はエバ・ジェルバブエナの公演 A 4 Voces に招待されたれば、三時家を出で地下鐵道に乘り四時四分發新幹線のぞみ號にて東上す。富士山の雪夕陽に赤く染まりたり。五時四十六分東京驛下車、中央線にて新宿に出で、花園神社の參道を步みて新宿文化センターに徃く。事務處のM氏旣に來りて在り。小島氏の妹君の知遇を得たり。六時半の開塲と同時に舞臺上にエバ屹立し默劇を行ふ。客入れアナウンスは余が飜譯し小島氏が朗讀したりしものなり。七時開演。ミゲル・エルナンデス、ビセンテ・アレイクサンドレ、ブラス・デ・オテーロ、ガルシーア・ロルカの詩をカンタオールが歌ひエバが踊る。エバの技術表現力に間然する處なし。八時半終演。樂屋にエバを訪ね挨拶し、舞踊團のYさんM君と倶に新宿三丁目良庵に晚餐をなす。歡語二時間半。零時過店前にて別れ新宿三丁目驛に下り地下鐵道丸ノ内線を待つに池袋行き最終列車旣に發車したりとの放送あり。詮方なくタキシを拾ひ赤坂に出でゝカプセルホテルに投宿す。タキシの運轉手ヤクザの親分子分を乘せたばかりとて、怖いです怖いですと愚癡をこぼすこと頻りなりき。カプセルホテルは初めてなり。存外居心地良し。
雨ふりてはまた歇む。氣候例ならず暖なれば寒の雨とは思はれず。朝食の後倦怠感を覺え一睡を貪り覺むれば窓旣に暗し。晚間父上東京より歸宅せらる。
薄く曇りて風なし。燈刻雨。
寒氣凜冽なれど每日空よく晴れ渡りたり。午下メディカルクリニックに徃きカウンセリングを受く。愛知縣圖書館に立寄り詩集を返卻す。三時歸宅。昨日錄音せし新春放談を聽く。
大瀧 ライブはねえ、昔からどうも人前はどうも…。ライブに限らず人前が嫌ですね。ずーつと嫌でしたね。何の因果でこんな人の前で何かやんなきやいけないのかなあつていふ…。
山下 歌ふのは好きだけど…。
大瀧 人前は嫌ですね。
山下 不特定多數の人の前で歌ふのは…。
大瀧 うん。
山下 わかります。
大瀧 それはずつと、延々どうも駄目でした。
山下 昔はさういふ人は引張り出されなかつたものなんですけど、時代ですかねやつぱり。
大瀧 まあシンガーソングライターの出だしなんか皆さうだつたんぢやないですか。
山下 藝能プロダクションに所屬してオーディション受けてつて、さういふんぢやないですからね。
大瀧 うん。あのやつぱりね、人に聞かさうと思ふ時にどうしても邪念が入りますよ。歌はね、歌つてゝ樂しいものなんです、基本的に。
山下 よくわかります(笑)。
大瀧 でね、どうしても樂しくないと嫌なんですねえ。
山下 人に聞かせる事が樂しい人つて…。
大瀧 ゐるんだよねえ、聞きたくないんだけど。
山下 あはゝ。
大瀧 聞いてくれつていふのは嫌だねえ、世の中で。
山下 割合はそつちの方が多いでせう。
大瀧 多いですね。最低四割か六割、六割位はそつちの人たちぢやないでせうかね。だからカラオケがあんなに流行つたんでないかと思ひますよ。
山下 本當は人に聞かせる事と自分が樂しむ事はイーヴンできちつと…。
大瀧 さう/\。その人が本當に觀客を意識しないで樂しく本當に自分の中で歌つてるのはいゝんですよ。
山下 それが結果的に觀客を樂しませれば最高…。
大瀧 最高。どうもね、こつちの方を向いて歌つてるんだよ、歌が。あれが嫌なんだなあ。
山下 見えちやうから。
大瀧 さうなんだよねえ。でもそれはね、自分自身にも跳反る問題でせう。そこがね…。
山下 それは藝事の地獄だから。
大瀧 xうなのよ。だから歌に限らずやつぱりそこは藝人なり役者の人もさうだし誰でもさうだけど、その邊でガタ/\云つてるやうなのは駄目なの、つまり。
山下 アハゝ。
大瀧 これを一番云ひたいの。だから、それを誰かに代つて自分自身に裁定を下したのよ。お前そんなガタ/\云つてるやうぢやもう半端だよ、と。
山下 ハゝゝ。
大瀧 そんなもんぢや駄目だよつて自分に云つたのさ。誰かゞ云つてやんなきや。ゐるでせう、ほら、「誰か云つてやれよ」つていふ。
山下 ハッハッハ。
大瀧 て云ひながら、お前は何なんだつていふ事があるでせう。だからね、自分自身で裁判官を兼ねたんですね。お前は駄目だと。
山下 でもお客さんは來るもんで呼ぶもんぢやないから。來ちやふんだから仕樣がないぢやないですか。はっぴいえんどの時代からお客さんは勝手に來るんだから大瀧さんの塲合は。
大瀧 ゐなかつたよ、人。(笑)
山下 (笑)
大瀧 皆、中津川では皆寐てたしね、朝。
山下 それは時代性が惡かつたんですよ。(笑)
大瀧 賴んでも聞いてもらへなかつたですからね。あの頃はね。もう最後の大阪城ホールぢやなくて何處だつたつけかな。あの、あなた、ダウンタウンで一曲ゲストで來てもらつた時も、あの、僕は、小ホールか中ホールでね。上で矢沢さんがやつてましたよ。
山下 あゝさうなんだ。
大瀧 うん。まあ、あの邊で已めておくのがよかつたんですよね。とつく/″\今となつては思ひます。退散するのは、マッカーサーぢやないですけど、早いはうがいゝですよ。
山下 歌唄ひとしての大瀧さんの地位つていふのは、きちつと…。
大瀧 ありませんよ、そんなもの。
山下 ありますよ。さうぢやなかつたら…。
大瀧 歌唄ひとしてもないですよ、作家としてもないし。
山下 そんな事ありませんよ。寡作だつていふ事とは違ひますからね。だつてさうぢやなかつたら、もう二十…あれ、何年出してないんだつけ、アルバム(笑)。八十四だから、えゝと二十二年出してないんだけど。
大瀧 まだ二十二年しか經つてないんだね。
山下 エヘゝゝゝ。
大瀧 早く三十年經たないかなあと思つてさ。
山下 すごいわ。
大瀧 あつといふ間だつたぢやない三十周年紀念とか云つたつてさ。
山下 まあね。
大瀧 出さなくなつてから三十年位はやつぱりやらないとね。記錄つていふ譯にはいかんでせう。
山下 アハゝゝゝ。ギネスブックに載る…。
大瀧 でもまあ、偶々歌の僕のラベルの低いのとかは、ビング・クロスビーを出すまでもなく、ペリー・コモとか巧いよお。本ッ當に巧い。シナトラのあゝいふ天然的な巧さつていふのはまた橫に置いといて…。
山下 ジョニー・マティスとか…。
大瀧 トニー・ベネット邊りまで行けば迫力あるしさあ。ペリー・コモなんか本ッ當に巧いな。何であんなに巧いかね。
山下 うふゝ。
大瀧 あゝいふのを聞いてると自分でやるの嫌になるもんねえ。
山下 それは要求項目が高すぎるからですよ。本當に。
大瀧 どうせやるなら…。
山下 どうせやるならあれ位やりたいつていふんでせう。
大瀧 うふゝ。
山下 なれないんだつたらならやりたくないつて云ふんでせう。その先云ふことはわかつてるんだけど。でも、僕、藝人の人で自分が本當に巧いと思つてゐる人一人もゐないと思ひますよ。
大瀧 まあね。それはわかりますよ。
山下 逆に巧いと思つてる人はある程度の處までしか行かないぢやないですか。
大瀧 さう/\。
山下 どんなに巧い人でも、ひばりさんが本當の意味で自分が歌巧いとはね、多分思つてなかつたんぢやないかなと。
大瀧 僕もさう思ふ。
山下 だからあゝいふ歌になる。エルヴィス然り。皆優れたシンガーにしろ優れたプレイヤーにしろ、やっぱり自分の中で不滿な處があつてね。それを少しでも埋めやうとして前に行くつていふ。
大瀧 まあね。でもエルヴィスと長嶋は考へてなかつた氣がするね。
山下 ふゝゝ。
大瀧 何ていふか、勿論雜念はあるんだけども、かうなんかアイソレートされてるやうな氣がするんだ。雜念と自分との間に。
山下 ふむ/\。
大瀧 最近のイーストウッドにもそれは感じるんだけど。何かこの、アイソレートされてるんだよ。
山下 それがさっき云つてた、自分が樂しんで同時に人も樂しませるといふ…。
大瀧 さう/\。あれは窮極だよねえ。
山下 うん。それはよくわかるな。
大瀧 やるならあれ。
山下 アッハッハ。そこまではなか/\ね。
大瀧 なか/\ね。一寸ね、欲張りだよね。なんだけど、生れ落ちたからには…。
山下 欲張りたい。
大瀧 さう/\。「お前の番だと聲かけられて」つていふね。といふことぢやないかと思ひますよ。
快晴。寒中の寒さなり。父上伯母の通夜あり新潟に發つ。終日蓐中にラヂオを聽く。日曜喫茶室ゲスト神田山陽、伊太利留學の思ひ出話、ナラトーレの話題など語る。二人目は大島希巳江。文敎大學外國語學部助敎授にして英語落語の推進者なり。サンデー・ソングブック大瀧詠一山下達郎新春放談後編。
山下 大瀧さんて自分がミュージシャンになろうと思つた本當の動機つて何ですか。
大瀧 ないですね。これは何度も云つてるでせう。未だにそのつもりもないしなるつもりもなかつたし。
山下 だけどもしはっぴいえんどといふファクターがなかつたらどうなつてたと思ひます。何やつてたと思ひます。
大瀧 何やつてたんでせうか。最近こゝずつと、こゝ何年か映畫を見てるでせう。
山下 えゝ。
大瀧 だからたまに映畫の關係の人とね、話をして、まあ向うでも儀禮的に、映畫つくる氣はないのか、みたいな質問をね…。
山下 ほう、そんなことがあるんですか。
大瀧 儀禮的に云つてくれてるんだと思ふんだけど。まあ眞面目に荅へるのも、儀禮で聞いてるのに眞面目に荅へるのも一寸若いなあとは思ひながらも、まあ全くないんだけれども。全くないんですよ。
山下 ふむ。
大瀧 それはね、音樂で失敗したからなの。
山下 あゝ、さう。
大瀧 やつぱりね、つくる側には囘らなきやよかつたね。
山下 ふーむ。
大瀧 映畫も多分つくる側に囘つたらやつぱり變ると思ふんだよね。
山下 音樂で失敗なんかしてないぢやないですか。
大瀧 いや/\、だから失敗したのよ。やつぱりつくる氣持ちで聞いちやうんだよ。
山下 ほう。成程ね。
大瀧 つくる側に囘つてからは。
山下 つくる氣持ちで聞いちやう。
大瀧 聞いちやう。
山下 要するにエンジョイ出來なくなつちやつた。本當の意味でね。
大瀧 出來ない。それは失敗だつた。
山下 成程ね。
大瀧 何とか、だから「やらない」ことによつて戾らないかなあと思つてるんだけど。
山下 僕の四十年來の一番仲のいゝ友達がいて、大瀧さんには何囘も申上げたんだけど、僕ブラバンでドラム叩いてる前がトロンボーンだつたのね。トロンボーンの人が僕にビーチボーイズとか全部敎へてくれたんです。
大瀧 うん。
山下 で彼は、一番自分の好きな事は職業にしないつて云つて、醫者になつて今でも醫者ですけど。正月はいつも一緖に會ふんですが。さういふ事ですよね。
大瀧 それは羨ましい。唯一、人を羨まないんだけど、その…。これは一寸無理な話かなあと思ふんだけど、でもこれだけね、つくる側から離れて休んでゐると、結構戾つてきてるんぢやないかなあつていふ氣はしますよ。
山下 ふゝゝ。
大瀧 だからそれで、中學の頃にエルヴィスの作家別のリストを作るとか、誰にも賴まれないのにやつてた頃と同じやうに今は、六十年代のナッシュヴィルのレコーディングデータを作つてるんですよ。
山下 ふむ。
大瀧 これも何度も云つてるけど、エヴァリーの翌日がロイ・オービソンで翌日がエルヴィスでつていふのを、曲每の日付のレコーディングデータつていふのを誰にも賴まれてもゐないにも拘はらず。ていふと必ず、ラヂオのDJやつてたからどうですかそれで發表したらつていふ風に云はれるんだけど、そのためではないんですよ。
山下 全然啓蒙主義的ぢやないですもんね大瀧さんて。
大瀧 樂しむ方向がよい…。
山下 自分が樂しまないと駄目…。
大瀧 まあ、それでね、どうもその自分の殼に閉ぢ籠つてゐて自分さへ良ければ良いのかといふご批判も一部ではあるかも知れないですけど、それとも違うやうな氣がします。
山下 オタクといふよりは凝り性の一人つ子ですからね。
大瀧 でも例へばそれを發表する機會があつたらやりますよ。だからポップス傳もさうなんですよ。別にあれ發表しやうと思つてやつてた譯ではないし、分母分子論もさうだつたし。偶々ね、自分の體驗に基づいて…。たゞ自分で作る側に囘らなかつたらあの手の分母分子論みたいな事は考へなくて濟んでたかも知れないけれども、でもやる前からあゝいふやうな感じはあつたんですよね。リスナーとしてもあれはあれで書ける事だつたと思ふけど。やつぱりやつた事に於て隨分變つたなとは思ひます。
山下 何であゝいふね、分母分子論つていふのは本當に面白かつたんだけど、何で今まであゝいふ事を云ふ人は誰もゐなかつたの。
大瀧 いや、ゐたんぢやないの。云ひ方と提示の仕方が違つたゞけで。何度も申上げてる通り、あれはみんなわかつてる事なんですよ。
山下 云はれると目から鱗…。
大瀧 それは「聞いてみたからわかつたよ」の人見きよしだからね。
山下 コロンブスの卵みたい。
大瀧 うん。それは別に云つたからつて初めて在るもんぢやないしね。ニュートンが云つたから重力が出來た譯ぢやないのである譯だから。だからいつも云つてる通り、野球理論の正しい人が全員三割打てるかつて云つたら打てないのと同じやうな事だから、別に提示した事自體には何だつて事はないんだけど。
山下 さういふ發言は初めて聞いたけれど、自分がミュージシャンとして音樂つくつてたからあの發想が出て來たつていふことなんですね。
大瀧 さうだと思ひますよ。發表する氣になつたつていふかね。
山下 自分の活動とか音樂狀況とか、つくる側から見てる。矛盾點とか、自分と合ふ處合はない處…。
大瀧 體驗…。
山下 體驗的なね、經驗的な問題意識とかゞ理論化に繫がつたつていふこと。
大瀧 やる側に囘つて面白かつたのは歌ふ人の氣持ちとか、どういふ風にして、かういふ塲合にはかう歌ふとか、かうだつたからかうなつたんだつていふことが細かくわかるやうになつたつてことはあるね。
山下 うん。
大瀧 あるんだけど、何か一寸細かく捉へ過て、もつと茫洋に、厖大な、何うでもいゝやうにのんびりと聞いてゐたかつたなつていふのはあるんです。
西風寒くして晴れたり。朝食の後飯塚W氏と電話にて歡談一時間ばかり。名古屋しらかわホール仲道郁代ピアノリサイタルのことなどにつきてなり。余は電話を厭ふものなれどW氏と余は小靈通ウィルコム同士にて通話料無料なれば幾分氣安し。晝飯は食さず。二時三郷やまとの湯に徃き露天風呂に浴す。駐車塲ほゞ滿車なれど男風呂さして混雜せず。女風呂定めし雜踏するならむ。
薄く晴れてまた曇る。眠より寤むるに耳許に大林宣彦に似たる聲響きゐたり。時計を見るに午前四時半過なり。聲は mp3播放器のイヤホンより聞え、よく/\聞くに番組はラヂオ深夜便にて聲の主は五木寬之なり。それにつけても話しぶり大林宣彦に相似たり。氣象廳の發表によるに、舊臘の世界平均氣溫明治二十四年以降最も高かりしといふ。飜譯の筆進まず。
七時過母上に起さる。十五時間昏々と眠りぬ。晴れて寒し。中京大學今年度最終授業を行ふ。あけおめと挨拶する學生あり。明けましておめでたうの畧なり。專ら網絡のみに流通する書言葉と思ひゐたれば一驚を喫す。¡Feliz Año Nuevo! と應ず。午下家にかへり鏡開きの汁粉を食す。
晴。アイモール三好店のペットプラスに徃きミニウサギの價格を調ぶ。四千七百貳拾五圓。晡下一睡せんと橫臥、そのまゝ夜を明かす。第六囘朝日舞臺藝術賞發表さる。
グランプリ(賞金貳百萬圓) |
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『時のなかの時――とき』 |
(山海塾+パリ市立劇塲+北九州藝術劇塲共同プロデュース) |
舞臺藝術賞(賞金百萬圓) |
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麻実れい |
段田安則 |
寺島しのぶ |
東京バレエ團 |
中村吉右衛門 |
寺山修司賞(賞金百萬圓) |
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市川亀治郎 |
秋元松代賞(賞金百萬圓) |
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角野卓造 |
特別賞(賞金百萬圓) |
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小幡欣治 |
快晴。マリティーナと電子郵件を交すこと數次なり。余はつく/″\犬か猫を飼ひたし。鬱病の療治にも效果ありと余に勸める友人一人や二人のみならず。N子の贊同も得たり。問題は父上母上なり。試みに母上に相談するに案の定言下に反對せらる。父上は犬猫を忌避して歇まず。此日防衞省發足。阿倍晉三首相去四日の年頭記者會見にて憲法改正を是非私の内閣で目指したいと明言せり。一九三〇年代と見紛ふ右傾化恐るべし恐るべし。
朝の中より雨降りつゞきて寒氣甚し。例により八時起出でゝ電子郵件を確認するに、垃圾郵件の夥しき中 SOY MARITINA の題名あるを見る。もしやと思ひ開きて讀むにマリティーナなり。マリティーナと親密になりしは昭和六十一年余が初めて馬德里に遊學せし時なり。早や二十一年の昔とはなれり。渡西早々同居人マノーロの友人のパーティーにて相識りたり。余は女の美貌と知性に忽惚れ、女も余を憎からず思ひ、爾來芝居や活動寫眞を倶に看たりしこと幾囘なるを知らず。歸國後は文通を續け、平成四年ふたゝび余が馬德里に遊學せし時中央電話局より電話をかけたりしが音信の最後なりき。この日晝飯の後久振りに鳧の啼くを聞く。三時睡魔に襲はれ橫臥し mp3 プレーヤーにて志ん朝が三枚起請を聽くうちに直に華胥に遊ぶ。
八時起出で机に倚る。窗外をみるに曇りし空より粉雪舞始め、みる/\うちに橫毆りの大吹雪となれり。屋根の上一二寸積りたりしが、午後に至りて空澄渡り雪は融けぬ。晝餉に砂糖醬油餠を食ひ、NHK-FM日曜喫茶室に菅原都々子喜味こいしの座談を聽く。つゞけてFM 愛知山下達郎サンデー・ソングブックに大瀧詠一新春放談を聽く。大瀧健忘症を告白す。晡下甜郷に遊ぶ。二更煙草を求めんと外に出づるに微雨蕭々たり。枕上アイリバーの mp3 プレーヤーにて志ん朝の落語を聽くこと日課の如し。
朝來雨霏々。風もまた寒し。晝餉に黃粉餠を食す。初更雷鳴あり。松の内にこの雷鳴果して何の故なるや。怪しむ可し。
快晴。午前執筆。九枚書き得たり。越後高橋孫左右衞門商店の翁飴を食す。打越の郵便局に徃きゼミ卆業生Yさんに出產祝ひを送り、シューズプラザ・チヨダに立寄り靴を購ふ。二足四千九百八拾圓也。午後エバ・ジェルバブエナ公演四つの聲で A 4 Voces の譯詞をC氏に送る。中日新聞をみるに牛田智浩逮捕の記事あり。牛田は舊抑鬱亭の管理人なりき。他人になりすまし消費者金融より參百萬圓借入れたりといふ。母上嘗てM住宅にて男に會ひたりし時一見して無賴漢と心附きたりきと云はる。余は立居振舞ひの粗野なる男とのみ思ひたりき。
今日も好く晴れてあたゝかなり。元日より四日つゞけて年賀郵便物配達さる。嘗ては正月二日は配達を休みたりき。郵政民營化の效果なるべし。二時N子を藤が丘驛に送る。イトーヨーカドー三郷店に徃く途次本地が原を通るにホームセンターナカイ店舖半ば取壞されたり。裏手の漫畫喫茶「はるにれ」もいつか店を疊みぬ。晚間演出者協會M氏より電子郵件あり。三月のワークショップにつきてなり。謝金の額あまりにも低く一驚を喫す。とりあへず乞はるゝまゝ飜譯のみ應諾す。今年ほど平穩なる正月は罕なり。
七時床を出づ。快晴の空午後に至りて曇る。西風强し。晝飯に汁粉を食す。一時NHK總合初笑ひ東西寄席に爆笑問題の漫才と林家木久藏の彦六傳をみる。爆笑問題の漫才今年は精彩に乏し。太田光マギー司郎の弟子に扮してマギー光と名乘りトランプの奇術を披露せり。西は中田カウス・ボタン、Wヤングなど、いづれも笑へず。晡時N子を伴ひ車に乘りてカーマホームセンター日進竹の山店に徃き端書ホルダーを購ひ、店内奧のペットショップを冷かす。矢島といふ店員來りて懇切丁寧に小型犬の解說をなす。最も毛の拔けにくきはトイ・プードルなりとぞ。ジャック・ラッセル・テリアの子二匹元氣溌剌檻より飛出さむとす。歸途西浦のペットのスマイルに立寄るに生後五ヶ月のトイ・プードル雌余の指を舐め甘えること頻りなり。愛すべし。値札をみるに貳拾九萬八千圓。價格憎むべし。六時歸宅。滿月朦朧たり。鳥專用の襁褓があることをN子に敎はる。商品名フライトスーツといひ、オカメ鸚哥やセキセイ鸚哥に裝著し室内にて放飼ひにするものなり。レモン存命時に此を知りゐたらば購ひたりき。
風なく曇りて暖なり。起き出でゝ顏を洗へば忽にして午とはなれり。晝餔の後N子と藤が丘を散策す。聯日暴暖開花の時節と思誤りてや、香流通りの路傍に蒲公英の咲けるを見る。 effe、マツザカヤストア、白樺書房など年初早々に營業しゐたり。effe のスターバックスに一憩し、愛玩動物談義となり、犬猫を見むとて一旦抑鬱亭にかへり車に乘りて西浦のペットのスマイル長久手店に徃く。エジプト產れのサルーキといふ犬を初めて見る。柴犬壹拾參萬圓。三好アイモールのペットシティに徃く。家族連れの客多く駐車塲ほゞ滿車、雜踏甚し。フェレットを購ふ家族あり。アイモールの中央廣塲にて早川流やぐら太鼓の試演あり。五時店を出れば日は旣に沒したり。六時前歸宅。夕餉の後トロワグロのパン・オ・フリュイを食す。銀座コロンバン製なり。美味。衞星第二初笑ひ昭和なつかし亭にて林家三平の源平盛衰記を聽く。何度見ても抱腹絕倒なり。午前三時を過ても眠れず、エバミール1mgを飮む。
陰曆十一月十三日。朝の中晴れしが午後より曇る。風なくあたゝかなり。和氣冲融たり。例によつて爲す事もなし。賀狀を整理し、うつら/\と居眠る中、日は早くも傾きたり。晚餐に豆乳鍋を食す。飯塚W氏と電話にて笑語二時間半に及べり。