六時レモンの囀りで起牀。天氣牢晴。風なく暖なり。午前筆硯に親しむ。產休中の同僚Y氏より電子郵件屆く。愈々臨月を迎へぬ。鶴首して待ち望みし大野一雄のDVD『美と力』屆く。一九三六年のアルヘンティーナの舞踊映像收錄されてをり。晝餉後卒爾に睡魔に訪はれ午睡。眠より醒めれば晡下、レモン枕元に鎭坐し予の目尻耳朶頬など嘴で愛撫し起こさんとす。起出でんと欲すれど睡魔抗ひがたくふたゝび夢の世界を彷徨ふこと五時半に及ぶ。六時實家。獻立はイクラとほぐし鮭の丼、獨活の酢味噌和へ、筍と若布の煮物、蛤汁。七時半歸宅。
六時レモンの囀りで起牀すること例の如し。暮春らしき暖氣に近鄰の櫻旣に散り始めぬ。午前机に凭りて茟秉る。午下名古屋女子大學に赴き第五囘世界演劇硏究會に出席す。予と同病を患ふ同僚I氏と一年ぶりの再會を果たす。顏色すぐれずいたましいかぎりなり。K大學I氏の知遇を得る。縣立大大學院修士課程を修了して間もない女性、沙翁『テンペスト』を論ず。論據乏しく感心せざり。晡時歸宅。夕餉後執筆初更に及ぶ。
六時レモンの囀りで眠より醒むる。毎朝恆例なり。薄く曇りて風暖なり。午後雨。二月初旬より睡眠藥を服用せず快眠するも、數年來の不眠の敵討ちとばかりに日中時々突如として睡眠を催すことあり。眠れば晝となく夜となく必妙な夢に襲はる。體調良好なれど不精が祟り几邊の書類草稿なんど整理せむと思へどその氣力失せたり。讀書意の如くならず、舊稾を添削する氣力さへなし。「夕空の法則」のみ二篇執筆す。ビリー・ワイルダーの訃報に接す。享年九十五。聖林またひとり名脚本家を喪ひぬ。『深夜の告白』の緻密な構成、『サンセット大通り』のグロリア・スワンソンの怪演、とりわけ『お熱いのがお好き』の幕切れの臺詞は映畫史上に燦然たる輝きを放つ。『アパートの鍵貸します』『あなただけ今晚は』のアレクサンドル・トローネの美術卓拔なり。ビリー・ワイルダー映畫は上質の落語に通ず。午後實家に赴き父上母上に字處理軟件講座を開く。母上の上達日に/\顯著なり。晡時歸宅。
六時起牀。快晴。東南の風吹きすさみて冷なり。洗濯し蒲團を干す。風梢しづかになりしかば近鄰の料理屋で晝餉を飯しスターバックスへ赴きテラスで咖啡を啜りながら一服喫す。歸宅途次電腦販賣店に徃き電腦用カードを贖ふ。抑鬱亭二臺目の筆記本電腦、移動上網に接續せり。電車での移動中や外出先で無線により互聯網に移動通信可能となりぬ。
六時起牀。隂。七時チェックアウト。新札幌より新千歲空港に徃き、日本航空の始發に乘り名古屋歸參。風雨烈し。藤が丘の櫻やうやく滿開なり。驛よりタクシーで歸宅。玄關を開けるにレモン嬉々として舞ひ來たる。午下父上母上を誘ひ、藤が丘「龜屋芳廣」で櫻餠を茶請けに抹茶を喫し花見を催す。窗外亭々たる大樹見事な枝ぶりなり。實家に送り筆記本電腦の講座を開き、コピー&ペーストの技を傳授す。晡下歸宅。レモン產卵す。二十五個目なり。
六時半起牀。書齋と臺所の塵を拂ふ。午下父上母上車で來宅。名古屋空港まで送つてもらふ。日本航空で千歲へ徃く。北海道は一昨年の十二月以來なり。雪跡形もなし。三月なれど暖かなこと晚春の如し。新札幌シェラトン・ホテルにチェックイン。二十四階の眺望豐かな部屋に荷物を解き、札幌へ出て凾館本線で野幌下車、タクシーで北野華苑へ徃き、O君ご尊父の通夜に出席す。親族會社關係者など百二十名餘り參加す。神式の通夜は初めてなり。神道では通夜ならず前夜祭と呼ぶを知る。玉串を捧げし後、友人代表として親族の會食に同席し、仕出し辨當を食しながらO君夫妻と語らふ。二年前の結婚式には入院中ゆゑ出席できず夫人の拜顏の榮に浴すのはけふが初めてなり。身重で六月が豫定日といふ。九月に大谷地に新居を構へる豫定なり。O君のご母堂に久闊を詫びるも、ご高齡で予の記憶なしと覺ゆ。初更辭去。タクシーで野幌驛に行き白石で乘り換へ新札幌へ戾る。懷かしき故郷大麻驛徃時と殆ど變はらず。ホテルの部屋は廣く寢臺も立派なり。早々就寢。
午前演出家S氏より電話あり。乞はれてH氏に西班牙語の書翰を認め、電子郵件の添附文件で送る。明日の通夜に着るシャツを簞笥に探すに何れも丈が短し。この數年體重增加せしためなり。近所の紳士服店で贖ふ。首囘り四十一センチ、袖丈八十六センチなり。互聯網で明日午後の航空劵を贖ひ、新札幌のシェラトンホテルを豫約す。
始發の新幹線で大阪より歸宅す。午睡。燈刻新札幌のO君より電子郵件。ご尊父急逝。享年 74。火曜告別式。O君電話口で嗚咽すること頻りなり。孫の姿を拜ませられぬことを悔やめば、超一流企業に就職し美しい妻を娶りて十分親孝行なりと勵まし、今宵はゆつくり休むやう諭す。
午前新幹線で新大阪へ下り、在來線に乘り換へて寶塚へ徃く。驛を步くこと五分ほどで寶塚歌劇塲到着。二時。劇塲改札橫レストラン前でNさんPGさんPKさんSさんと落ち合ふ。二年前共に「海の病棟」に入院せしNさん頗る元氣で安堵す。他三人の女性は初對面なり。入り口そばの喫茶店で談笑。三時。花組公演開演。第一部「琥珀色の雨にぬれて」。一九二〇年代フランスが舞臺の旣婚男性の道ならぬ戀の物語。トップの匠ひゞき歌踊りともに精彩なし。他の出演者は總じて歌の質高し。シャロン役の大鳥れいの演技堅固で見ごたへあり。第二部のレヴュー「カクテル」。俄かに言語化しがたい摩訶不思儀な舞臺なり。十七世紀西班牙の舞臺公演のフィエスタに通ずるものあり。幕間の抽選會で春野寿美礼のサイン色紙が當たる。入場劵を贖入せしPKさんに讓る。終演後梅田に徃きインド料理屋「コヒヌール」で會食。NさんPKさんSさん寶塚の熱烈な支援者で口角泡を飛ばし料理そつちのけで侃々諤々議論す。予の立ち入る隙なし。三更梅田驛そばのMホテルに投宿。
六時半起牀。隂。晡時疎雨。風强し。正午大學。卒業式。學生煌びやかに着飾りたり。一時歸宅。午睡。夕刻御器所のスペイン料理屋「エル・トレロ」で卒業生主催の謝恩會に出席す。夜間のH孃見事なフラメンコを披露す。祝辭を乞はれラテン語の Carpe diem を捧ぐ。
六時半起牀。天氣牢晴。久方ぶりに「夕空の法則」執筆。午下母上實家より步いて來宅。郵便物を確認しに階下に下りるにレモン余の肩に止まつた儘ついてくる。初の外出なり。入り口で母上と出くはした拍子に驚いてレモンマンションの上階に舞ひ上がる。三階廊下の手摺で啼いてゐるのを發見し無事保護す。母上早速昨日の印刷機で認めし繪入り書翰を下さる。見事な出來榮えなり。車に母上を乘せて實家に徃く。父上に字處理軟件扱ひ方を指南す。夕餉をご馳走になる。たらのめと蕗の薹の天麩羅を數年ぶりに食す。菜の花のおひたし。春の味覺揃ひたり。初更歸宅。
六時起牀。半隂半晴。うらゝかなり。實家に赴き父上母上にプリンターを贈り印刷方法を指南す。晡下富ケ丘「雅ピロ」で會食。タンシチューに舌鼓を打つ。父上的矢牡蠣のセット(生・グラタン・フライ)をぺろりと平らげ余のパンまで食す。戰中の食糧難の洟垂れ小僧の如し。
春風日に/\あたゝかなり。終日執筆。午下湯治せんと三郷やまとの湯に赴くに脫衣所で父上と邂逅しロビーで談笑す。一月前に罹病したヘルペス未だ治らず唇や耳朶の皮膨れ、顏の左半面硬直してをり。
七時半起牀。天氣朗晴風冷やかなり。連載原稾脫稿。編輯者F氏に送る。
晏眠正午に及ぶ。隂。微風冷かならずいかにも春らしき日なり。午下三郷やまとの湯で湯治。内風呂は蓬の湯。机に凭りて原稾執筆すれど感興來たらず。
七時起牀。終日困臥。晡時レモン產卵。二十個目なり。